左手の波動が収まらない! どうすればいいのかなあ……。
最近怪人でないからなー、雷神衝撃波ぜんっぜん撃てて無いからかなー。
今にも出そう! 雷神衝撃……まで出かかってる。これマジで。マジでやばい。
出る、出る出る! あぶねー! 手首つかんだら止まった! あぶねー! マジであぶねー!
いやー! 収まりつかん! すげー撃ちたい! 撃ち抜きたい!
壁とかじゃやだ! 牛とか撃ち抜きたい! 乳牛じゃないやつ撃ちたい!
撃ち抜きたいよ〜!
なんか、あれかな。欲求不満みたいなのも関係してくんのかな。こういうの。
彼女出来たらこういうの収まったりするんだろうか。
彼女欲しい! 彼女欲しいよ〜!
あ〜も〜! 撃ち抜きたいよ〜! あと彼女欲しいよ〜!
来ない。
遣唐使来ないじゃん。ぜんっぜん来ない。毎年貢ぎ物持ってさあ、来てたじゃん。この時期。なんで来んの。なんで? なんで来んの。
あれかー。え? 去年あれか。「お前らの船さあ、毎回違うとこ着くよねー」って俺が言ったから? いやだってあれはホントじゃん。都目指して船出してくるのに、毎回よくわかんないとこに流れ着くし。あの、お前らがよく着く南の方とか、正直うちの領土なのかどうなのか微妙だかんね? 知らんからね、変な人に捕まっても。でさあ、着いたら着いたで、「迎えに来てー、貢ぎ物多くて運べない」みたいなこと言ってくるでしょ。なんだ。彼氏か、俺は。行くけどね? 貢ぎ物欲しいからね。ハッピーターン超うまいしね。あれ何? 超うまい。
あれか。あれきつく言ったからか。お前らさあ、結構勝手にお経書き写すじゃん。あれ犯罪だかんね。で、去年ちょっときつく注意したんだよね、そしたら、お金払えばいいんでしょ、みたいな態度とったじゃないですか。あれホントなんだろ、がっかりしたわ。がっかりした。万里の長城あんまり意味ないことに気づいた時くらいがっかりした。お金とかじゃないよ。でも、ホント大目に見てる方だと思うよ、うちはね。
いや。あれか。あの事件か。なんだろ、さんざん都で遊んで「さよならー」って言ったと思ったら流されてまた帰ってきたじゃん。あれほんとやめてほしい。再見再見ってホントに再見したとき何て言っていいか分からん。「あっ……お、おう!」ってなる。まあでもそれは仕方ないんだけど、「船が直るまであと3ヶ月居ます」みたいなこと言うじゃん。平気で。悪びれずに。こっちの身にもなって欲しい。宿とか無いからね。お前らだけの宿じゃないからね。布団もさあ、全部干しちゃうし、シーツとか洗うし。
だから、カッとなって「お前らを泊めるところは無いよ!」って言ったのね。ついつい言っちゃったのね。そしたら、なんか勝手に変な家建てたじゃん。ホントにやりたい放題だな、おたくら。でも、それについても何も言わなかったじゃん。言わなかったじゃない。あの変な家もまだ有るよ。でも最近あの周りで人が消えるんですけど。あの家何?
なんだよ。どういうことだよ。結構お前らのために尽くしてる感はあるよ。来いよ。
俺、実際問題お前らのこと嫌いじゃないの。すげえアホだけど、なんか憎めないわけ。あとハッピーターン? あれ何? 超うまいんですけど。
来ない。
遣唐使来ないじゃん。ぜんっぜん来ない。毎年貢ぎ物持ってさあ、来てたじゃん。この時期。なんで来んの。なんで? なんで来んの。
あれかー。え? 去年あれか。「お前らの船さあ、毎回違うとこ着くよねー」って俺が言ったから? いやだってあれはホントじゃん。都目指して船出してくるのに、毎回よくわかんないとこに流れ着くし。あの、お前らがよく着く南の方とか、正直うちの領土なのかどうなのか微妙だかんね? 知らんからね、変な人に捕まっても。でさあ、着いたら着いたで、「迎えに来てー、貢ぎ物多くて運べない」みたいなこと言ってくるでしょ。なんだ。彼氏か、俺は。行くけどね? 貢ぎ物欲しいからね。ハッピーターン超うまいしね。あれ何? 超うまい。
あれか。あれきつく言ったからか。お前らさあ、結構勝手にお経書き写すじゃん。あれ犯罪だかんね。で、去年ちょっときつく注意したんだよね、そしたら、お金払えばいいんでしょ、みたいな態度とったじゃないですか。あれホントなんだろ、がっかりしたわ。がっかりした。万里の長城あんまり意味ないことに気づいた時くらいがっかりした。お金とかじゃないよ。でも、ホント大目に見てる方だと思うよ、うちはね。
いや。あれか。あの事件か。なんだろ、さんざん都で遊んで「さよならー」って言ったと思ったら流されてまた帰ってきたじゃん。あれほんとやめてほしい。再見再見ってホントに再見したとき何て言っていいか分からん。「あっ……お、おう!」ってなる。まあでもそれは仕方ないんだけど、「船が直るまであと3ヶ月居ます」みたいなこと言うじゃん。平気で。悪びれずに。こっちの身にもなって欲しい。宿とか無いからね。お前らだけの宿じゃないからね。布団もさあ、全部干しちゃうし、シーツとか洗うし。
だから、カッとなって「お前らを泊めるところは無いよ!」って言ったのね。ついつい言っちゃったのね。そしたら、なんか勝手に変な家建てたじゃん。ホントにやりたい放題だな、おたくら。でも、それについても何も言わなかったじゃん。言わなかったじゃない。あの変な家もまだ有るよ。でも最近あの周りで人が消えるんですけど。あの家何?
なんだよ。どういうことだよ。結構お前らのために尽くしてる感はあるよ。来いよ。
俺、実際問題お前らのこと嫌いじゃないの。すげえアホだけど、なんか憎めないわけ。あとハッピーターン? あれ何? 超うまいんですけど。
来ない。
「一休さんをビジネスに生かす、という本がなぜ出ない」
「急になんだ」
「孫子の兵法とかより身近だし、サラリーマンはどんどん生かしていったらいいんじゃないかな!」
「どう生かすの。あれを」
「例えば、タイガー魔法瓶の社長が、『魔法瓶のロゴに入ってる虎が夜な夜な外に出てきて困ってるんすわ』みたいなことを言ってくるわけだ」
「言わねえよ! まず、タイガー魔法瓶の社長とそんな気さくに話したことねえよ!」
「で、『じゃあ、その虎を出してください!』とか言って」
「そのまんまじゃねえか」
「デジカメ持って」
「せめて縄を持て」
「撮りたいだろ! 出てくる瞬間!」
「出てこないよ!」
「お前、2次元が3次元になるとこ見たくないの? や、漫画とかではあるけど実際見たらすげえぞ多分」
「お前とんち分かってないだろ」
「お前の方こそ、この危機的状況を分かってないだろ」
「どういうこと?」
「魔法瓶の虎が出てっちゃったら、そらー大変なことだからね」
「何で?」
「ぜんっぜん保温効かなくなるし」
「は?」
「魔法瓶に封印してあった虎が出て行ったら、魔法解けんだろーが!」
「別に虎パワーじゃねえよ! 保温は!」
「お前1回虎に踏まれたほうがいいよ」
「え、普通噛まれたほうがいい、とか食われたほうがいい、とかじゃないの?」
「したらお前死ぬだろーが! お前死んだら悲しいだろーが!」
「あ、そう。なんかお気遣いありがとう」
「あとは、吉野石膏の社長とかに相談されるわな」
「あ、その会社知らない」
「うちの虎が勝手にロゴから抜け出してCM出てるんですわ。ぼっくっはターイガー!とか言って」
「ああ、タイガーボードの! ちょっと待て。あれは勝手に出てたのか。」
「どこからどう見ても虎目線の歌詞だろーが! ぼくはタイガーって!」
「そう作ったんだよ! 人間が!」
「CM制作会社の気持ちになってみろよ。虎がいきなり来るんだよ。『僕をCMに出してください、ガオー!』って」
「はあ。これは怖いね」
「制作会社の人は『やばい! 拒否したら踏まれる!』ってなってね」
「虎の恐怖は踏むことじゃないからね! さっきから!」
「で、なんかよく分からん歌詞で歌ったり踊ったりしてるんだけど、言えないからね」
「言ったら踏まれるからね」
「踏まれるだけで済むと思うなよ!」
「お前がさんざん言ってたんじゃないか!」
「両足踏み!」
「結局踏んでんじゃねえか!」
「クロス踏み!」
「うるせえ!」
「まあー、あとは、阪神タイガースね」
「うーん」
「球団社長に相談されるわけですわ。『猛虎打線復活にはどうしたらいいですかね』」
「普通の相談じゃないか。もういいよ」
「急になんだ」
「孫子の兵法とかより身近だし、サラリーマンはどんどん生かしていったらいいんじゃないかな!」
「どう生かすの。あれを」
「例えば、タイガー魔法瓶の社長が、『魔法瓶のロゴに入ってる虎が夜な夜な外に出てきて困ってるんすわ』みたいなことを言ってくるわけだ」
「言わねえよ! まず、タイガー魔法瓶の社長とそんな気さくに話したことねえよ!」
「で、『じゃあ、その虎を出してください!』とか言って」
「そのまんまじゃねえか」
「デジカメ持って」
「せめて縄を持て」
「撮りたいだろ! 出てくる瞬間!」
「出てこないよ!」
「お前、2次元が3次元になるとこ見たくないの? や、漫画とかではあるけど実際見たらすげえぞ多分」
「お前とんち分かってないだろ」
「お前の方こそ、この危機的状況を分かってないだろ」
「どういうこと?」
「魔法瓶の虎が出てっちゃったら、そらー大変なことだからね」
「何で?」
「ぜんっぜん保温効かなくなるし」
「は?」
「魔法瓶に封印してあった虎が出て行ったら、魔法解けんだろーが!」
「別に虎パワーじゃねえよ! 保温は!」
「お前1回虎に踏まれたほうがいいよ」
「え、普通噛まれたほうがいい、とか食われたほうがいい、とかじゃないの?」
「したらお前死ぬだろーが! お前死んだら悲しいだろーが!」
「あ、そう。なんかお気遣いありがとう」
「あとは、吉野石膏の社長とかに相談されるわな」
「あ、その会社知らない」
「うちの虎が勝手にロゴから抜け出してCM出てるんですわ。ぼっくっはターイガー!とか言って」
「ああ、タイガーボードの! ちょっと待て。あれは勝手に出てたのか。」
「どこからどう見ても虎目線の歌詞だろーが! ぼくはタイガーって!」
「そう作ったんだよ! 人間が!」
「CM制作会社の気持ちになってみろよ。虎がいきなり来るんだよ。『僕をCMに出してください、ガオー!』って」
「はあ。これは怖いね」
「制作会社の人は『やばい! 拒否したら踏まれる!』ってなってね」
「虎の恐怖は踏むことじゃないからね! さっきから!」
「で、なんかよく分からん歌詞で歌ったり踊ったりしてるんだけど、言えないからね」
「言ったら踏まれるからね」
「踏まれるだけで済むと思うなよ!」
「お前がさんざん言ってたんじゃないか!」
「両足踏み!」
「結局踏んでんじゃねえか!」
「クロス踏み!」
「うるせえ!」
「まあー、あとは、阪神タイガースね」
「うーん」
「球団社長に相談されるわけですわ。『猛虎打線復活にはどうしたらいいですかね』」
「普通の相談じゃないか。もういいよ」
こんなのも書いたよ。
逆回転している。地球が。さっき気づいた。
都心のビル群とビル群の谷間の日陰、デジタルキノコが生えそうな住宅街に引っ越してから1ヶ月経ったが、東西南北を未だに分かっていなかった。分かる必要が無かった。朝ベランダに洗濯物を干せば、ビルの隙間から陽がぱーっと照る時間があって、それで、帰宅する夜までには乾いている。生活スタイル上、これだけの情報があれば良かった。
気づいたのは、カヨちゃんが遊びにきたときだ。
「あっ、この部屋、台所が鬼門だよ。やばいね」
「え? そんなはずないよ」
このマンションが唯一誇れる「家相」に、間違いがあるわけがないのだ。
下見のとき、大家がこの部屋の家相の良さを延々と喋っていた。なんでも、旦那が中国系の人で、風水が分かるから設計にすべて口を挟んだ、というのを、まあ、延々と、さも自分が設計したかのように。その後ろで、旦那は、ぬれせんべいを食っていた。
そう、だから、台所が北東にあるわけがないのだ。
「でも、今、窓から西陽が差してるから、あっちが西でしょ? そしたら、こっちが北東」
カヨちゃんが指差した先では、カーテンの隙間から漏れ出た光が、安い銀色のシェルフをさらに安光りさせていた。その上では、もっと安いカエルの貯金箱が、これまた安い影を作っていた。光源が低いせいでベロ部分の影が極端に大きくデフォルメされ、とても馬鹿っぽい。
「いや、でも、それは、ありえないよ。だって、このマンションは風水マンションなんだから」
「何それ」
「とにかく、ありえないんだよ」
「じゃあ、太陽が東に沈んでるんだねー」
頭ごなしに否定する僕に、カヨちゃんは呆れたように言い放った。
「うん、じゃあ、そうだ」
僕だって、負けてはいない。
「大変だね」
「ああ、大変だ大変だ」
本当に、大変なことになっていたのだ。太陽が東に沈んでいる。ということは、地球、逆回転してる。
僕が気づいてしまったこの事実を、誰に言えばいい。区役所か。何課に行けばいいんだろう。そもそも、なぜ誰も気づいてないんだろう。もっと、気象庁とか、毎日空を見上げてる奴らが先に気づいて大騒ぎしてもいいはずだろう。今日の朝はどうだった? テレビの天気情報の記憶をたどる。お天気お姉さんが、「今日は曇りで太陽が見えません」と言っていた。本当だろうか。本当に曇りだったのか。太陽が逆の方向にあっただけじゃないのか。もちろん僕は確かめなかった。おそらく誰も確かめてないんだろう。テレビが曇りといえば今日は曇りで、ラッキーアイテムが外人なら、今日はアイリッシュパブが混むのだ。
いつから太陽は西から昇っているのだろうか。小学校の頃、理科で、太陽の軌跡を追ったことがある。確かあのときは、ちゃんと東から昇っていた。いや、本当にそうなのだろうか。東から昇るものだと頭から決め付けて、重大な過ちを見逃していなかっただろうか。
ヒトの染色体の数は、長いあいだ数え間違えられていたらしい。46が正解なんだけど、何年も、47説が支配していたと言う。まあ素人が考えるよりも染色体を数えるのは難しいんだろうけど、でも、それでも、世界中の研究者がずっと間違え続けていたってのは、とても興味深い。46個しか見つからなくても、「んー、ここが、重なってるっぽいからー、はい、47!」とか無理やりこじつけた人も居るかもしれない。そんなものなのだ。しばしば僕たちは、フワフワしたパン・ケーキのような土地に、鉄筋の論理を打ち立てる。「あ、そこ、土地グズグズっすよ?」と誰かに指摘された瞬間に、ガラガラーっと、イく。
とにかく、僕は、この事実に気づいた最初の人間らしい。武者震いが止まらなかった。俺、教科書、載るかな。載る! 間違いなく、これは載る。
「カヨちゃん。俺、区役所行って来る」
「何言ってんの? 今日土曜日だしやってないよ」
「でも行って来る」
「あそう。好きにするといいよ」
駄目だ。カヨちゃんは駄目だ。染色体の数を無理やり47にするタイプの人間だ。僕はそうならない。家のドアを開け、僕は、僕のドアを開けた。
大家が居た。「あっ、やすのり君。今月家賃振り込んでないでしょ」
そうだった。えっじゃあ今払いますと言うと、「良い良い、手渡しは逆にめんどくさいから、来週までに振り込んでちょうだい」
それよりも、大変なんですよ、大家さん、と言おうとしたとき。
「いやー、やすのり君、あのことで怒って家賃振り込まなかったんじゃないかと思って、心配して来たのよ」
「えっ」
「その、あのー、ほら、下見のときに、わたし、家相が良いとか言ったじゃない。でも、ほら、台所が鬼門にあるじゃない。これはほんと仕方なく、仕方なくこうなっちゃったの。ガスの線とか、そういう関係で。でも安心して、台所のとこにお札貼ってあったでしょ、あれ、毎年お参り行ってるの。おばちゃんが。おばちゃんが毎年お参りに行って、貼りかえてるの。だから大丈夫。それからね、台所の位置以外は、本当に、本当に良い家相なの。これは、パパが言ってるから間違いないのよ」
パパは、大家の2メートル程後ろで、ぬれせんべいを食っていた。
都心のビル群とビル群の谷間の日陰、デジタルキノコが生えそうな住宅街に引っ越してから1ヶ月経ったが、東西南北を未だに分かっていなかった。分かる必要が無かった。朝ベランダに洗濯物を干せば、ビルの隙間から陽がぱーっと照る時間があって、それで、帰宅する夜までには乾いている。生活スタイル上、これだけの情報があれば良かった。
気づいたのは、カヨちゃんが遊びにきたときだ。
「あっ、この部屋、台所が鬼門だよ。やばいね」
「え? そんなはずないよ」
このマンションが唯一誇れる「家相」に、間違いがあるわけがないのだ。
下見のとき、大家がこの部屋の家相の良さを延々と喋っていた。なんでも、旦那が中国系の人で、風水が分かるから設計にすべて口を挟んだ、というのを、まあ、延々と、さも自分が設計したかのように。その後ろで、旦那は、ぬれせんべいを食っていた。
そう、だから、台所が北東にあるわけがないのだ。
「でも、今、窓から西陽が差してるから、あっちが西でしょ? そしたら、こっちが北東」
カヨちゃんが指差した先では、カーテンの隙間から漏れ出た光が、安い銀色のシェルフをさらに安光りさせていた。その上では、もっと安いカエルの貯金箱が、これまた安い影を作っていた。光源が低いせいでベロ部分の影が極端に大きくデフォルメされ、とても馬鹿っぽい。
「いや、でも、それは、ありえないよ。だって、このマンションは風水マンションなんだから」
「何それ」
「とにかく、ありえないんだよ」
「じゃあ、太陽が東に沈んでるんだねー」
頭ごなしに否定する僕に、カヨちゃんは呆れたように言い放った。
「うん、じゃあ、そうだ」
僕だって、負けてはいない。
「大変だね」
「ああ、大変だ大変だ」
本当に、大変なことになっていたのだ。太陽が東に沈んでいる。ということは、地球、逆回転してる。
僕が気づいてしまったこの事実を、誰に言えばいい。区役所か。何課に行けばいいんだろう。そもそも、なぜ誰も気づいてないんだろう。もっと、気象庁とか、毎日空を見上げてる奴らが先に気づいて大騒ぎしてもいいはずだろう。今日の朝はどうだった? テレビの天気情報の記憶をたどる。お天気お姉さんが、「今日は曇りで太陽が見えません」と言っていた。本当だろうか。本当に曇りだったのか。太陽が逆の方向にあっただけじゃないのか。もちろん僕は確かめなかった。おそらく誰も確かめてないんだろう。テレビが曇りといえば今日は曇りで、ラッキーアイテムが外人なら、今日はアイリッシュパブが混むのだ。
いつから太陽は西から昇っているのだろうか。小学校の頃、理科で、太陽の軌跡を追ったことがある。確かあのときは、ちゃんと東から昇っていた。いや、本当にそうなのだろうか。東から昇るものだと頭から決め付けて、重大な過ちを見逃していなかっただろうか。
ヒトの染色体の数は、長いあいだ数え間違えられていたらしい。46が正解なんだけど、何年も、47説が支配していたと言う。まあ素人が考えるよりも染色体を数えるのは難しいんだろうけど、でも、それでも、世界中の研究者がずっと間違え続けていたってのは、とても興味深い。46個しか見つからなくても、「んー、ここが、重なってるっぽいからー、はい、47!」とか無理やりこじつけた人も居るかもしれない。そんなものなのだ。しばしば僕たちは、フワフワしたパン・ケーキのような土地に、鉄筋の論理を打ち立てる。「あ、そこ、土地グズグズっすよ?」と誰かに指摘された瞬間に、ガラガラーっと、イく。
とにかく、僕は、この事実に気づいた最初の人間らしい。武者震いが止まらなかった。俺、教科書、載るかな。載る! 間違いなく、これは載る。
「カヨちゃん。俺、区役所行って来る」
「何言ってんの? 今日土曜日だしやってないよ」
「でも行って来る」
「あそう。好きにするといいよ」
駄目だ。カヨちゃんは駄目だ。染色体の数を無理やり47にするタイプの人間だ。僕はそうならない。家のドアを開け、僕は、僕のドアを開けた。
大家が居た。「あっ、やすのり君。今月家賃振り込んでないでしょ」
そうだった。えっじゃあ今払いますと言うと、「良い良い、手渡しは逆にめんどくさいから、来週までに振り込んでちょうだい」
それよりも、大変なんですよ、大家さん、と言おうとしたとき。
「いやー、やすのり君、あのことで怒って家賃振り込まなかったんじゃないかと思って、心配して来たのよ」
「えっ」
「その、あのー、ほら、下見のときに、わたし、家相が良いとか言ったじゃない。でも、ほら、台所が鬼門にあるじゃない。これはほんと仕方なく、仕方なくこうなっちゃったの。ガスの線とか、そういう関係で。でも安心して、台所のとこにお札貼ってあったでしょ、あれ、毎年お参り行ってるの。おばちゃんが。おばちゃんが毎年お参りに行って、貼りかえてるの。だから大丈夫。それからね、台所の位置以外は、本当に、本当に良い家相なの。これは、パパが言ってるから間違いないのよ」
パパは、大家の2メートル程後ろで、ぬれせんべいを食っていた。