この兜ができるまで
「兜を作れ」
「はっ。兜でございますか」
「俺の兜を作れ」
「かしこまりました! どのような感じがよろしいでしょうか」
「覇者にふさわしいものだ」
「じゃあなんか、トゲトゲみたいなのはいかがでしょう」
「……」
「じゃあフワフワなのはいかがでしょう。
「……」
「トゲトゲみたいなのがつくのと、フワフワみたいなのは、どっちがよろしいですか?」
「……トゲトゲ」
「トゲトゲはどのようにつけましょうか」
「……」
「こういうのは言っていただくのが一番ですので、ご希望を仰っていただけると非常に助かります」
「耳のあたりから、ぐーっと前に、こうだ」
「水牛のように、ですか」
「……」
「それって水牛ですよね!」
「覇者にふさわしいものを考えたらそうなった」
「でも水牛に近いですよね!?」
「水牛を意識したものではない」
「デザイナーには、具体的なモチーフを伝えるとブレないものが出来上がりますよ」
「水牛と捉えてもらっても良い」
「トゲトゲは、左右に2本だけでよろしいですか?」
「左右につけるから、2本だけでよかろう」
「今はですね、小さいトゲトゲを頭頂部に並べるデザインもございます」
「よく分からない」
「頭の上にトゲを、こう、ポンポンって」
「それは、鬼みたくならないのか?」
「あ~、鬼みたく横に並べないんですよ。こう、縦に置く感じで」
「鬼に見えないのか?」
「鬼には見えませんよ。縦ですから」
「本当に鬼に見えないのか?」
「縦に並べるので、はい、鬼は横ですよね。トゲが横に並んでますよね」
「遠くから見たらどうだろう」
「遠くから見てもですね、鬼は横ですので、大丈夫だと思いますよ」
「遠くの横から見たら鬼に見えてしまうのでは」
「あー、それはどうでしょう、でも、そしたらずっと鬼がよそ見してこっち見てる感じになりますから、あれ、変だな、前向かないでいいのかな、ってなりますから、時間が経てば気づくのではないでしょうか」
「鬼に見えないと言い切れるのか」
「見えません」
「……1日考えさせてくれ」
(一日後)
「一回実験をしたい」
こんなのも書いたよ。