2011-04-15   思考  
超汚いお店。

飲食店で、超汚いお店ってあるじゃないですか。なんというか、年季入ってて床の油染みが取れない、とかそういう汚さではなくて、もう絶対ここ掃除してねえだろ! 的な。完全に怠惰が原因の。
昔仕事で早稲田にいたんですけど、学生街にはそういう積極的汚さを維持しているお店がいくつもある。

で、すごいなあと思ったのは、3年くらい居たんだけど、食中毒で店を閉じている、とかいう風景に出会うことは無かった。

いや、何を当たり前のことを、って思ってるかもしれないですけど、汚部屋クリエイターの我々の思考からすれば、この現象は本当に驚きですよ。
え、汚部屋クリエイターです。かくいう俺も、放っておくと汚部屋の最上級であるところの魔窟を生成する能力を有しておりましたが、今は嫁が居るということと、6帖という身分相応な部屋を与えられていること、これらが相まって、そこまで能力を出さずに済んでいます。あれですけどね。若いうちは「汚い!」と言われて「エッヘッへー」で済んでますけど、40過ぎるとただのごみ屋敷おじさんですからね。更生できて良かった。

で、元・汚部屋クリエイターである俺が、あの、元泥棒が明かす空き巣に狙われやすい家、みたいな感じでしゃべりますけど、いいですか、あの、えっと、はい、汚部屋クリエイターです。職業です。え? 大部屋じゃないです。汚部屋、汚いって書いて汚部屋。はい。あ、ちゃんと声替えてもらってます? 親とか見てるかもしれないんで。これ夕方のニュースですよね? そうですか、じゃあしゃべります。
えー。そうじをしない、という選択は、「すべてがめんどくさい」という時に生まれます。
「それどころじゃない」という時にもそうじをしないという選択は生まれますが、大抵「それどころじゃない」の先にあるものは、「それ」どころ程度のものです。その思いは「それ」を過大評価、もしくは今まで放っておいてたことを棚にあげて自分は忙しい、掃除している場合じゃない、という自分への嘘から生まれています。そしてその嘘は「めんどくさい」から生まれていますので、やっぱり「すべてがめんどくさい」時に生まれています。

したがって、めんどくさいの塊になったとき、部屋が汚れます。
これ言い出すとなんか道徳の授業みたくなってしまうんで言いたかないんですけど、部屋が汚れているときは確実に本人やる気ないってのは真理ですよね。ありゃ真理だ。部屋の乱れは心の乱れ。ああ、うまいこと言ったもんです。そのとおりでさあ!(折れた傘で空ペットボトルを回しながら)

で、もし俺が飲食店の店主で、店の顔とも言える店内の掃除がめんどくさくなっちゃってたとしたら、食器洗うのもめんどくさいし、素材切るのもめんどくさい。めーんどーくさーい! そして近い将来、めんどくさいの雪崩が、食中毒事件を必ずや起こすはずなのです。

しかし、1件も起きなかった。
あんまり詳しくないですけど、まな板とふきんを洗わないでいたら、夏場とか、わりと食中毒って簡単に起こると言います。
ということは、「そこ」だけはちゃんとやってたってこと?
なんでなんで? お店の運営自体がめんどくさくなってるのに、食品の衛生を最終防衛ラインのように守るのは何なの? そこに何があるの? せめて他人には迷惑をかけまいとする心? すべてを失っても、それだけは残っていたというの?

昔の記憶をたどると、ひとつ思い当たるふしがあります。
学生時代、汚部屋仲間の一人が観葉植物を育てていまして、まあ全く「観葉」になってなかったんですけど、水だけはきっちりあげてた。これには俺も言葉を失いました。なぜそんなことをするんだい? もうお前の部屋は死んでるんだぜ?
彼は「だってかわいそうだろ」と答えました。そうか。こいつは、すべてがめんどくさくなっても、それがもとで植物が死ぬのは嫌なんだ。

汚部屋の澱みに食い殺される前の、最後の人間らしさ。一筋の光に手をかざす姿が、そこにはあったのかもしれません。
彼は観葉植物の生命を維持することを最終防衛ラインにしていたのかもしれない。
そして、汚いお店の店主たちも。食の安全を守ることだけ、それだけを、最終防衛ラインにしていたのかもしれない。

みたいな話を以前後輩にしたところ
「食中毒云々の前に、あの店に人が入ってるの見たことあります?」


ないわい。








2004-07-20   思考  
 ミスチルじゃないけど、何かを分かって欲しくてサインを出すことがあります。

 この前、本社近くのさっぶい食事情のことを書いたんだけど、今俺はちょっと別の会社に常駐してまして、そこの会社の近くは活気に溢れていて食べ物に事欠かない。同じ東京都なのに! この格差! 今行ってる会社ってのは、ウチの会社より数倍大きいんだけど、なんだろ、こういう食とかそういうところから、な気がする。こんだけ日替わりでおいしいもん食べてりゃ、そりゃあ株も上がるわ。ブレーンもストーミングするわ。

 まあ、いいんだけど、そうは言っても、長いこと居ると、だんだん、あのー、良く行く店と行かない店ってのが分かれてくるもので、僕らにも、行きつけ、と呼べる店ができた。そこの名前が、まあ、仮に、「四廠亭」、としましょうや。よしょうてい。で、ちょっと難しい字だったから、初め、僕らね、なんて読むか分からなかった。まあ、分からないまま何回か通っていたんですけど、ある日、店の座敷の隅をふと見たら、あのー、毛筆で、店の名前を書いたものが貼ってあって。その上に、ふりがながふってあった。

いてうよしよ
亭廠四

こんな感じで、なんつーか、右から読む感じで、こう、大正ロマンといいますか、書いてあったんですけど、あのー、先輩が、それを見て、

「あー、うよしよ亭って言うんだ」

何故、亭、だけ残して左から読んだんだろう。よく分からないけど、俺、びっくりして、

「いや、右から読むんじゃないですか?」

「あ、なるほど」

先輩も理解してくれた。と思っていたのですが。次の日。

「よしよう亭行こうぜ、よしよう亭」

 こう、なんだろ、明らかに、日本語の経験則から、よしょう亭じゃないですか。ちっちゃくなるじゃないですか。言いにくいでしょ? よ・し・よ・うって、言いにくいでしょ? で、俺も、その場で「いや、よしょう亭でしょ?」とか指摘すれば良かったんですけど、あのー、「ああ、はい」とか言っちゃったんですよね。いや、ホント理由は無いんですけど、あー、めんどくさかったんですかね、とにかく、流してしまった。

 そこからですよ。今まで、結局毎日のように先輩の提案で四廠亭には行っているんだけど、毎回、先輩は、よしようよしよう言う。でも、先輩に指摘できないでいる。だって、今更、「先輩、前前から気になってたんですけど……」とか言うのは非常に言いづらい。前前から、って、じゃあ何で早く言わなかったんだ、って話じゃないですか。泳がして馬鹿にしてたみたいでなんか嫌だ。すべては、初日に指摘しなかったからだ。

 もう、こうなったら、先輩に自分で気づいてもらうしかない。そう思った俺は、もう、四廠亭で、事あるごとに「いやあ、よしょう亭は旨いなあ」だとか、「よしょう亭ってどういう意味なんすかね?」だとか、事あるごとに、よしょうよしょう言って、先輩にサインを送りつづけています。「しょ」の部分ものすごい速く発音してね。ちっちゃいよ! ちっちゃいんだよ!

 まあ、でも、気づく気配は全く無く。今日もまた言いにくそうに、よしようよしよう言っている。まあ、そんなもんだよなあ。でも、アレだ、日本語って、そもそも言い易いように「よ」が小さくなったりするものだから、そのうち自然に先輩が「よしょう亭」と言い出す日が来るかもしれない。先輩の中だけで、日本語が進化していく。僕たちは、日本語の訛る過程の目撃者になれるかもしれない。学研の透明アリの巣観察セットの気分で見守ろうと思います。

 まあ、サインの話に戻ると、あのー、まあ、人に分かってもらおうとしてサインを出しつづけていることって良くありますけど、逆にね、人が、俺にサインを出しているんじゃないか、と思うことがある。

 家の近くに喫茶店があるんだけど、そこで出しているカレーが、俺、結構気に入ったんですよ。俺、何回か言ってますけど、あの、カレーは粉から作るくらい凝ってまして、あの、自分の好きな味は自分しか出せない、みたいなところがあるんで、こう、あんまり、人のカレーに感動することって、無いんですよ。

 でも、そこの喫茶店のカレーがね、なんか、おいしかった。で、俺、ホント、この感動をみんなにも分けてあげたくって、あのー、何人くらいかなあ。7,8人くらい連れてったかなあ。全部サシで行ったんですけど、あ、だから、毎週連続で7,8回行ったことになる。
「ここのカレーは、ほんとおいしいんだ」
「ここの名物はカレーだから」
と念を押し、カレー以外を頼ませないようにして。

 で、この前、またカレーを食べに一人で行ったんですけど、あのー、メニューに、見慣れないシールが貼ってあった。

「パスタが評判の店 ○○」

 客が10人入れば一杯、のような店なんで、俺が毎週のようにカレーカレーはしゃぐ姿は、店員にも見えただろう。

 うちはパスタで売ってんだよ! 勝手にカレーが名物とか言うな!
 という、俺に対しての、サインなのではないか。

 思わず、食べたくもないペペロンチーノを頼んだ。




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