寒いと早足になりますよね。
最近とみに寒いので、今、人類の歩行速度が一番速い季節です。
本当に最速です。
己の為に走る、みたいな良く解らんモチベーションではなくて、この場合は、ほら、はやく暖かいところへ行きたい! という生物的な、古い部分の脳が命令している何かですから、本気ですよ。本気で歩いてます。
この状況での歩く速度というのがその人が持っている最高速なんじゃないの。
だから、朝、駅までの道で女の人に抜かれたとき、めちゃくちゃショックで。スーパーの前で完全に刺された。
俺の本気が。俺の本気があっさりと。
彼女の背格好は俺より小さい。
それなのに、着実に離されていく。
あれ何でしょうね。競歩とか詳しくないんで知らないんですけど、歩幅と回転数のちょうどいい塩梅があるんでしょうね。
多分、彼女は、そのバランスが良いんだわ。
そうなったらこっちも、歩幅と回転数をいじるしかないじゃないですか。
ひとつは、回転数を犠牲にして、歩幅を大きくするパターン。
もう一つは、歩幅を小さくして、回転数を上げるパターン。
どっちが有効なんだろうか。
考えろ。考えろ俺。
おそらく、彼女は、回転数重視のチューニングタイプを採用している。
ここに同じく回転数で真っ向勝負を仕掛けるのも良いけど、それは相手の土俵で勝負することになってしまう。
それよりも、ここは相手に出来ない方法、歩幅で稼いだほうが、何か起こりそうな気がする。勝機もあるんじゃないか。
ということで、歩幅重視のチューニングを採用しました。
足をいつもより半歩先へ着地。
足を遠くへ着地するのが思うようにいかないので、頭の中であしながおじさんをイメージする。
俺はあしながおじさん。俺はあしながおじさん。あしながおじさんだったら足を遠くに置く。
遠くに置いた分、体重移動にかなりの負担がかかるけれど、そこは頑張るしかない。
女の人とあしながおじさんの距離は、開くことはなくなりました。
これは行ける! もうすこし前へ! もうすこしあしのながいおじさんをイメージするんだ!
しっかし、あっちも速い。本気で速い。
ここでふと思ったのは、もしかしたら、これはハナから勝てる試合ではないのかも知れない、ということ。
「寒さ」という、人体に対する危機的状況が、この歩行速度を生み出している。
ここで、もし、人それぞれ感じる「寒さ」が違うとしたら。
もし、彼女が、俺の2倍の寒さを感じているとしたら。
女の人は寒がりだとはるか昔習ったことがある。もしそうならば、そもそもの積んでるエンジンが違うのだ。彼女は、寒さを喰らっているのだから。
俺が10サムーのエンジンでヤンヤン走ってるところを、彼女は20サムーのエンジンでガンガンすっ飛ばしてるのです。
変なモッコモコのボアにふんわりと包まれた俺は、勝てるわけが無いのです。
ダメだ。俺は絶対この人を抜くことはできないだろう。俺は、負けたのだ。
あしなが戦法では、後ろにくっついていくことが精一杯でした。
そのまま順位は変動することなく、駅の改札口へ。
完敗でした。
女の人は、その速度を保ったまま、券売機の前へ。定期を買いはじめました。
えー。あー。えー。もしかして、定期買うから急いでたの?
あと、後ろずーっとついてきたものだから、うっかりすぐ後ろで止まってしまい、そこでハアハア言ってたので、「何なの?」みたいな顔で見られました。
髪の長い男の人でした。
グッドモーニング!
最近とみに寒いので、今、人類の歩行速度が一番速い季節です。
本当に最速です。
己の為に走る、みたいな良く解らんモチベーションではなくて、この場合は、ほら、はやく暖かいところへ行きたい! という生物的な、古い部分の脳が命令している何かですから、本気ですよ。本気で歩いてます。
この状況での歩く速度というのがその人が持っている最高速なんじゃないの。
だから、朝、駅までの道で女の人に抜かれたとき、めちゃくちゃショックで。スーパーの前で完全に刺された。
俺の本気が。俺の本気があっさりと。
彼女の背格好は俺より小さい。
それなのに、着実に離されていく。
あれ何でしょうね。競歩とか詳しくないんで知らないんですけど、歩幅と回転数のちょうどいい塩梅があるんでしょうね。
多分、彼女は、そのバランスが良いんだわ。
そうなったらこっちも、歩幅と回転数をいじるしかないじゃないですか。
ひとつは、回転数を犠牲にして、歩幅を大きくするパターン。
もう一つは、歩幅を小さくして、回転数を上げるパターン。
どっちが有効なんだろうか。
考えろ。考えろ俺。
おそらく、彼女は、回転数重視のチューニングタイプを採用している。
ここに同じく回転数で真っ向勝負を仕掛けるのも良いけど、それは相手の土俵で勝負することになってしまう。
それよりも、ここは相手に出来ない方法、歩幅で稼いだほうが、何か起こりそうな気がする。勝機もあるんじゃないか。
ということで、歩幅重視のチューニングを採用しました。
足をいつもより半歩先へ着地。
足を遠くへ着地するのが思うようにいかないので、頭の中であしながおじさんをイメージする。
俺はあしながおじさん。俺はあしながおじさん。あしながおじさんだったら足を遠くに置く。
遠くに置いた分、体重移動にかなりの負担がかかるけれど、そこは頑張るしかない。
女の人とあしながおじさんの距離は、開くことはなくなりました。
これは行ける! もうすこし前へ! もうすこしあしのながいおじさんをイメージするんだ!
しっかし、あっちも速い。本気で速い。
ここでふと思ったのは、もしかしたら、これはハナから勝てる試合ではないのかも知れない、ということ。
「寒さ」という、人体に対する危機的状況が、この歩行速度を生み出している。
ここで、もし、人それぞれ感じる「寒さ」が違うとしたら。
もし、彼女が、俺の2倍の寒さを感じているとしたら。
女の人は寒がりだとはるか昔習ったことがある。もしそうならば、そもそもの積んでるエンジンが違うのだ。彼女は、寒さを喰らっているのだから。
俺が10サムーのエンジンでヤンヤン走ってるところを、彼女は20サムーのエンジンでガンガンすっ飛ばしてるのです。
変なモッコモコのボアにふんわりと包まれた俺は、勝てるわけが無いのです。
ダメだ。俺は絶対この人を抜くことはできないだろう。俺は、負けたのだ。
あしなが戦法では、後ろにくっついていくことが精一杯でした。
そのまま順位は変動することなく、駅の改札口へ。
完敗でした。
女の人は、その速度を保ったまま、券売機の前へ。定期を買いはじめました。
えー。あー。えー。もしかして、定期買うから急いでたの?
あと、後ろずーっとついてきたものだから、うっかりすぐ後ろで止まってしまい、そこでハアハア言ってたので、「何なの?」みたいな顔で見られました。
髪の長い男の人でした。
グッドモーニング!
こんなのも書いたよ。
リクルートのCMで笑った奴は負け組。
駅のアナウンスの声を、上り側と下り側で分けていることがあります。例えばウチの近くの駅では、1番線を男性、2番線を女性と分けているのですが、これ、同時にアナウンスが入った場合にも非常に聞き取り易い。ホント、よく考えたなあ、と思います。
まあ、そこまではいいんですよ。あのー、駅のアナウンスって、録音と生と二種類あるじゃないですか。例えば「まもなく、2番線に、上り列車が参ります」とかいう定型文は録音で、「えー、お下がりください、お下がりください」とか状況に合わせてリアルタイムで言うのが生だったりするわけですけど、俺の記憶では、ちょっと前までは、ウチの近くの駅、生の声も女性だったんですよ。ちゃんと。でも最近、その女性が辞めたのか何なのか知らないですけど、2番線の生声担当が男性になってしまった。
なんだろね、で、その男性も、すんごい考えた、と思うんですよ。男子禁制、脈々と女子にのみ受け継がれてきたこの仕事を、私なんかが引き受けていいものだろうか。私に、伝統を壊す権利があるのだろうか。そもそも、私がやることによって、乗客が聞き取りづらくなってしまうではないか。それだけは、絶対に避けなければならない。
で、その男の出した結論が、声を、半オクターブほど高く出すこと、でした。
「えぇー、お下がりくださいぃー。お下がりくださいぃー」
サラリーマンやOLでごった返す朝日のまぶしい駅、オカマ声が、列車の到着を告げます。
2番線のあなた。
今、同期の間では、あなたの話でもちきりになっています。「気持ち悪い」「朝からやる気が無くなる」「夢に出てきた」「マイクを持つ小指が立ってた」「新宿2丁目で見かけたらしい」等々。
俺は、全部分かってるから。全部分かってる。乗客のためを思って、がんばっているんだよね。
俺は、あなたを、応援しています(おしりを手で隠しながら)。
駅のアナウンスの声を、上り側と下り側で分けていることがあります。例えばウチの近くの駅では、1番線を男性、2番線を女性と分けているのですが、これ、同時にアナウンスが入った場合にも非常に聞き取り易い。ホント、よく考えたなあ、と思います。
まあ、そこまではいいんですよ。あのー、駅のアナウンスって、録音と生と二種類あるじゃないですか。例えば「まもなく、2番線に、上り列車が参ります」とかいう定型文は録音で、「えー、お下がりください、お下がりください」とか状況に合わせてリアルタイムで言うのが生だったりするわけですけど、俺の記憶では、ちょっと前までは、ウチの近くの駅、生の声も女性だったんですよ。ちゃんと。でも最近、その女性が辞めたのか何なのか知らないですけど、2番線の生声担当が男性になってしまった。
なんだろね、で、その男性も、すんごい考えた、と思うんですよ。男子禁制、脈々と女子にのみ受け継がれてきたこの仕事を、私なんかが引き受けていいものだろうか。私に、伝統を壊す権利があるのだろうか。そもそも、私がやることによって、乗客が聞き取りづらくなってしまうではないか。それだけは、絶対に避けなければならない。
で、その男の出した結論が、声を、半オクターブほど高く出すこと、でした。
「えぇー、お下がりくださいぃー。お下がりくださいぃー」
サラリーマンやOLでごった返す朝日のまぶしい駅、オカマ声が、列車の到着を告げます。
2番線のあなた。
今、同期の間では、あなたの話でもちきりになっています。「気持ち悪い」「朝からやる気が無くなる」「夢に出てきた」「マイクを持つ小指が立ってた」「新宿2丁目で見かけたらしい」等々。
俺は、全部分かってるから。全部分かってる。乗客のためを思って、がんばっているんだよね。
俺は、あなたを、応援しています(おしりを手で隠しながら)。
こんなのも書いたよ。
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