15年ぶりに歯医者へ行きました。
虫歯にならない人はならないっていうのは本当にあって、まさに俺のことなんだけど、どうやってもならない。こうなったら、どんだけならないのか試したい。就寝中、パカーンって空いた口に液状チョコレートを常になみなみと注ぎ続けてもらいたい。しないけど。死ぬし。
ただまあ15年という歳月は、丁寧に歯を磨いていたとしても歯石が完全に歯間を固め尽くすには十分な時間で、口の中と外の間にガッチリと壁を作ってしまった。聖書っぽく言うと、歯石は口を外の世界と中の世界に分けてしまわれた。
しかし、世界を分けたからといって特に不自由は無い。
むしろ好都合なこともあるかもしれない。
俺は昔、下の前歯がなんとなくグラついていたんだけど、今、そのグラつきって無い。
で、その理由って、もしかして、歯石さんたちがガッチリと歯を固定しているからなのでは、という持論がありましてですね。いや、歯医者にこれを言ったら、はあ? とバカにされるんで絶対言わないですけど、言わないですけど、そういう自分だけ分かる変な持論あるじゃないですか。
うちの父親は腹式呼吸をすると腹痛が治る、という持論があって。
まあ、よく腹痛になるので、そのなかであみ出した自分の方法なんだと思います。
昔、父親の腹の痛がり方が尋常じゃないので救急車を呼んだことがあります。
まあ全然大丈夫だったんですけど、その時に、医者に「いやあ、腹式呼吸をしても全然治らなくてですね」とか言ってて、医者は「はあ」みたいな。
父親は、あれ、通じなかったのかな? みたいな感じで、「腹式呼吸は何回もやったんですけどね、治らなくて救急車呼んじゃいました」「はあ」みたいな。
いや、全面的に医者が正しいぞ。
民間療法よりもタチの悪い個人療法。そんなものを医者に言ったところで、「はあ」という顔をされる。
絶対に持論は他人に言うまい、と。
で、そう。俺の歯の話にもどりますと、歯石によって我が歯はカッチリ立っている、沖ノ鳥島状態であることは俺だけのヒミツ。
そういう持論もあって、歯石問題については目をつぶったまま、15年の歳月が流れたのでございます。
気になりだしたのは、最近食後になんか歯がしみたこと。
いや、知覚過敏ってほどでは無いと思うんだけど、まあー、そういや、そろそろ歯周病みたいなのも気になる年頃であるわけです。
で、何気なくネットで検索した歯周病の悲惨さ。
あと歯石を溜めることの恐怖。歯石が歯肉の中にまでつきはじめると、歯肉を一旦ぺろんとめくって除去しなければならないとか言ってて、ギャン! と飛び上がり、着地までに当日予約完了した。口内のベルリンの壁が崩壊した瞬間でした。
歯医者で待つ。
歯医者って怖い場所、という認識はあるんだけど、15年も行ってないと、その感情も完全に麻痺しているので、ものすごく自然体。こんな温和な患者見たことない! 麻酔なしで華佗に治療される関羽か俺かだ。
で、呼ばれまして、歯科助手さんに早速変な尖った器具でガリガリやられるんですけど、歯肉と歯の僅かな隙間、ギリギリのところに、ものすごい速度でスッと器具が当てられる。え、ちょっと、もっと繊細に! スポーツカーみたく扱ってえ! ブロロロローン!
すごく神経質な作業なので、患部に当たる瞬間は、ものすごく丁寧に当ててくれるものだと予想してた。
現実は違った。器具を当てる思い切りの良さといったら、流れ来るクリームパンに卵黄を塗る人のそれと同じ。等速にポンポンと器具を当て、キーンキーンガリガリと削っていく。大丈夫か。
それともこの人はハンダ付けの名人のように、瞬時に器具を患部に当てられる特殊能力を持っているのか。
いや、それは無い、だって、対象は、俺、人間だもの。人間は動く。人間は動くのである。動物だから動く。それも、逃げるように動く。熟練工といえども、小刻みに逃げる基板に高速でハンダ付けできるものか。
何なんだ、と。この粗雑さは何なんだ、とずっと考えてたんですけど、出た結論としては、多分、歯と歯茎の間って、実はそんなに神経質になる部分ではなくて、ちょっとうっかり手がすべって血が出てもどうってことないんだろう。
分かっている人ほど、粗雑に扱うように見えることってある。
例えばコンタクトをしている人は、普通に指を目に入れることができて、白目は触ってもまあ大丈夫なことを体感で知ってる。でも、コンタクト未経験者の嫁に、「白目ってば触っても大丈夫なんだよ」とか言うと、「フギャアアアゴウ!」とか未体験の声を上げる。
これはひとえに、コンタクト未経験者の無知がそうさせている。
無知は、できることの範囲を狭め、何かを神格化し、恐れを連れてくる。
粗雑に扱っているのではなく、俺が無知なだけなんだ。
なるほどそうと分かる至極気が楽になって、心が定まった。
キーンキーンガリガリガリ、という音の後ろで、遠くから寺の鐘の音が聴こえてくる。
多分ブッダが歯科治療したらこんな感じ。歯茎から血がだらだら出ているのにすっごい穏やか!
やり残した部分があるので次週また来るように言われました。
次週は院長先生がやってくれました。
全然血が出ない。コラア!!!!
虫歯にならない人はならないっていうのは本当にあって、まさに俺のことなんだけど、どうやってもならない。こうなったら、どんだけならないのか試したい。就寝中、パカーンって空いた口に液状チョコレートを常になみなみと注ぎ続けてもらいたい。しないけど。死ぬし。
ただまあ15年という歳月は、丁寧に歯を磨いていたとしても歯石が完全に歯間を固め尽くすには十分な時間で、口の中と外の間にガッチリと壁を作ってしまった。聖書っぽく言うと、歯石は口を外の世界と中の世界に分けてしまわれた。
しかし、世界を分けたからといって特に不自由は無い。
むしろ好都合なこともあるかもしれない。
俺は昔、下の前歯がなんとなくグラついていたんだけど、今、そのグラつきって無い。
で、その理由って、もしかして、歯石さんたちがガッチリと歯を固定しているからなのでは、という持論がありましてですね。いや、歯医者にこれを言ったら、はあ? とバカにされるんで絶対言わないですけど、言わないですけど、そういう自分だけ分かる変な持論あるじゃないですか。
うちの父親は腹式呼吸をすると腹痛が治る、という持論があって。
まあ、よく腹痛になるので、そのなかであみ出した自分の方法なんだと思います。
昔、父親の腹の痛がり方が尋常じゃないので救急車を呼んだことがあります。
まあ全然大丈夫だったんですけど、その時に、医者に「いやあ、腹式呼吸をしても全然治らなくてですね」とか言ってて、医者は「はあ」みたいな。
父親は、あれ、通じなかったのかな? みたいな感じで、「腹式呼吸は何回もやったんですけどね、治らなくて救急車呼んじゃいました」「はあ」みたいな。
いや、全面的に医者が正しいぞ。
民間療法よりもタチの悪い個人療法。そんなものを医者に言ったところで、「はあ」という顔をされる。
絶対に持論は他人に言うまい、と。
で、そう。俺の歯の話にもどりますと、歯石によって我が歯はカッチリ立っている、沖ノ鳥島状態であることは俺だけのヒミツ。
そういう持論もあって、歯石問題については目をつぶったまま、15年の歳月が流れたのでございます。
気になりだしたのは、最近食後になんか歯がしみたこと。
いや、知覚過敏ってほどでは無いと思うんだけど、まあー、そういや、そろそろ歯周病みたいなのも気になる年頃であるわけです。
で、何気なくネットで検索した歯周病の悲惨さ。
あと歯石を溜めることの恐怖。歯石が歯肉の中にまでつきはじめると、歯肉を一旦ぺろんとめくって除去しなければならないとか言ってて、ギャン! と飛び上がり、着地までに当日予約完了した。口内のベルリンの壁が崩壊した瞬間でした。
歯医者で待つ。
歯医者って怖い場所、という認識はあるんだけど、15年も行ってないと、その感情も完全に麻痺しているので、ものすごく自然体。こんな温和な患者見たことない! 麻酔なしで華佗に治療される関羽か俺かだ。
で、呼ばれまして、歯科助手さんに早速変な尖った器具でガリガリやられるんですけど、歯肉と歯の僅かな隙間、ギリギリのところに、ものすごい速度でスッと器具が当てられる。え、ちょっと、もっと繊細に! スポーツカーみたく扱ってえ! ブロロロローン!
すごく神経質な作業なので、患部に当たる瞬間は、ものすごく丁寧に当ててくれるものだと予想してた。
現実は違った。器具を当てる思い切りの良さといったら、流れ来るクリームパンに卵黄を塗る人のそれと同じ。等速にポンポンと器具を当て、キーンキーンガリガリと削っていく。大丈夫か。
それともこの人はハンダ付けの名人のように、瞬時に器具を患部に当てられる特殊能力を持っているのか。
いや、それは無い、だって、対象は、俺、人間だもの。人間は動く。人間は動くのである。動物だから動く。それも、逃げるように動く。熟練工といえども、小刻みに逃げる基板に高速でハンダ付けできるものか。
何なんだ、と。この粗雑さは何なんだ、とずっと考えてたんですけど、出た結論としては、多分、歯と歯茎の間って、実はそんなに神経質になる部分ではなくて、ちょっとうっかり手がすべって血が出てもどうってことないんだろう。
分かっている人ほど、粗雑に扱うように見えることってある。
例えばコンタクトをしている人は、普通に指を目に入れることができて、白目は触ってもまあ大丈夫なことを体感で知ってる。でも、コンタクト未経験者の嫁に、「白目ってば触っても大丈夫なんだよ」とか言うと、「フギャアアアゴウ!」とか未体験の声を上げる。
これはひとえに、コンタクト未経験者の無知がそうさせている。
無知は、できることの範囲を狭め、何かを神格化し、恐れを連れてくる。
粗雑に扱っているのではなく、俺が無知なだけなんだ。
なるほどそうと分かる至極気が楽になって、心が定まった。
キーンキーンガリガリガリ、という音の後ろで、遠くから寺の鐘の音が聴こえてくる。
多分ブッダが歯科治療したらこんな感じ。歯茎から血がだらだら出ているのにすっごい穏やか!
やり残した部分があるので次週また来るように言われました。
次週は院長先生がやってくれました。
全然血が出ない。コラア!!!!