よくあるのが母親にXboxとか言っても伝わらないから「ファミコン」って説明する、おじいちゃんには「野球盤」と説明する、みたいなやつ。ひいおじいちゃんには「おもしろかるた」と説明する。
嘘なんだけど、当の本人たちにとってはもっとも分かりやすいし、聞き手が得られる情報、感覚は、真実を説明したときのそれを確実に超えている。写真が本物を超える感じに似ているかもしれない。
それが事実と異なるかどうか関係ない、というか、事実とは誰にとっての事実なのか。
嘘を発してもそれによって世界が変化しなければ、それは嘘じゃなくて、事実の同位体だと思うんだわ。
事実の同位体を有効に使うことで、コミュニケーションは円滑に進む。
最近は、家から電車で20分くらい、横浜の奥地で仕事(子供達の飛ばすシャボン玉を遠方から念力で確実に潰す仕事です)をしています。なんでこんなとこにオフィスがあるのか分かりません。キツネかもしれません。
いやなんか、ほんと平和すぎて怖い。
駅構内にはクラシックが流れ、駅前には主婦たちが語らい、子供と犬が遊んでいる。この絵面を、こう、うまいことやると、「平和」という漢字に変化するんじゃないか。
世間から置いてかれそう、という意味でもちょっと怖い。渋谷で働いてたころは、バリバリバリバリ言ってるサラリーマンとバリバリすれ違って、なんか、みんなバリバリ働いてんだなー、みたいなことをバリバリ思ったけど、最近は、公園で犬を見ながら「犬ってば超足速いなー」とか思ってる。
人混みを最近見てない。今ねぶた祭りと遭遇したら失神する。
大きな音を最近聞いてない。109行ったら確実に吐く。
で、そう、そのビルへ通ってるわけですけど、あのー、先日ね、朝いつものとおり行ったんですけど、そこのビルが開いてなかったんですよ。あれ、と思って、友達にメールしたんだけど返事がない。
まあ、オフィスでなくてもできる仕事なので、一端帰ろうとまた電車に乗って、2駅ほど行ったところで友達から電話が来た。
ビルの中に居るらしい。開けてくれるとのこと。
なんだー、って思って、再び逆の電車に乗ってオフィス最寄りの駅まで戻ってきたわけですが、改札で止められた。
あの、SuiCaってさ、入場と退場の駅が一緒の場合に、ピンポーン! って鳴って、出られないじゃないですか。
ああそうか。そうなるか。
仕方なく、駅員さんが居る改札口へ行ったわけです。
「どうしました」
「あ、えっと、ここで乗って、また戻ってきたんですけど」
「それは用事を済ませてということですか?」
このあたりの駅は、コンビニやちょっとした店など、俗に言う駅ナカがちょいちょいあったりする。
この駅から乗って、どこかの駅ナカまで行って用事を済ませて帰ってきたとしたら、完全に電車を「利用」したわけなので、往復の料金を支払うべきだろう。そのあたりを見極める質問だ、と気づいたんですね。
もし普通に返答するならば、「オフィスが閉まってたから家に帰ろうと思ったんですけど開いてたんで途中で引き返してまた来ました」なんですけど。
いや、全然まっとうな理由なので、堂々と言えばいいんですけど。
でもあの、なんというか、伝わりにくいかな、ってとっさに思ったのね。
いや、なんで伝わりにくいのかと思ったかって、この界隈って、ほんとに住宅街なんですよ。ベッドタウンなんです。ここに働きに来るという発想が普通は無いというか。
駅員さんの頭では、基本的にはこの駅がホームタウンだと思ってるはずなんですよ。現に、「用事を済ませて帰ってきたのですか?」と聞かれた。
そんなときに、「いやオフィスはこっちでオフィスに戻って来ました」とか言ったら一瞬混乱してしまうのでは、とか俺の超絶思いやり脳が判断したんですね。
ありのままを言って、「ん? どういうこと?」ってなったら、まあ、説明すればいいんだけど、一手増えるじゃん。全然スマートじゃない。
こういうときに、"事実の同位体"が役に立つ。
「えっと、会社行く途中だったんですけど、戻ってきました」
ここに住んでることにしました。
方向を真逆にしただけで、内容は一緒。
駅員さんの想像どおりの乗客を演じることで、お互いめんどくさくない。人生がちょっとハッピーになるちょっとした変換。
案の定、僕の説明は駅員さんの頭に水のように染みこんだようでした。
「どこまで行ったんですか?」
「えっあー、2つ先の駅です。戻ってきただけなんです」
「じゃあ、えー、はい、(料金は)いいですよ」
「えっ、有り難うございます!」
「書き換えますんで、SuiCaをいただけますか?」
SuiCaを差し出す。
それを機械に乗せる駅員。
「あれ、朝1回こっちへ来てます?」
SuiCaは、履歴を見ることができるんですね。
履歴を見れば、朝に一回この駅へ来ていることが分かる。
さっきの説明と違う! こいつよそものだ! いぶかしむ駅員。
「いやあの、えっと夜勤みたいなやつ……で……朝一回帰ってきて……それから……」
夜勤みたいなやつ。何だよそれ。夜勤みたいなやつって夜勤以外であるかな!
あと、すっげえわかりにくくなってる。話が。
夜勤で朝帰ってくる人がそのあと会社へ行って戻ってくる、という設定になってる。もっともややこしい人になってる。
なんだか納得いかなそうな顔でSuiCaを書き換える駅員。
こんな展開期待してなかった! もうこの駅降りられない! いや全然降りるけど、フードみたいのかぶって降りる! 顔の隠れる、もこもこの毛がついたフード。
ということで、もこもこの毛(着脱式)をフードに取り付けました。冬ですね。
嘘なんだけど、当の本人たちにとってはもっとも分かりやすいし、聞き手が得られる情報、感覚は、真実を説明したときのそれを確実に超えている。写真が本物を超える感じに似ているかもしれない。
それが事実と異なるかどうか関係ない、というか、事実とは誰にとっての事実なのか。
嘘を発してもそれによって世界が変化しなければ、それは嘘じゃなくて、事実の同位体だと思うんだわ。
事実の同位体を有効に使うことで、コミュニケーションは円滑に進む。
最近は、家から電車で20分くらい、横浜の奥地で仕事(子供達の飛ばすシャボン玉を遠方から念力で確実に潰す仕事です)をしています。なんでこんなとこにオフィスがあるのか分かりません。キツネかもしれません。
いやなんか、ほんと平和すぎて怖い。
駅構内にはクラシックが流れ、駅前には主婦たちが語らい、子供と犬が遊んでいる。この絵面を、こう、うまいことやると、「平和」という漢字に変化するんじゃないか。
世間から置いてかれそう、という意味でもちょっと怖い。渋谷で働いてたころは、バリバリバリバリ言ってるサラリーマンとバリバリすれ違って、なんか、みんなバリバリ働いてんだなー、みたいなことをバリバリ思ったけど、最近は、公園で犬を見ながら「犬ってば超足速いなー」とか思ってる。
人混みを最近見てない。今ねぶた祭りと遭遇したら失神する。
大きな音を最近聞いてない。109行ったら確実に吐く。
で、そう、そのビルへ通ってるわけですけど、あのー、先日ね、朝いつものとおり行ったんですけど、そこのビルが開いてなかったんですよ。あれ、と思って、友達にメールしたんだけど返事がない。
まあ、オフィスでなくてもできる仕事なので、一端帰ろうとまた電車に乗って、2駅ほど行ったところで友達から電話が来た。
ビルの中に居るらしい。開けてくれるとのこと。
なんだー、って思って、再び逆の電車に乗ってオフィス最寄りの駅まで戻ってきたわけですが、改札で止められた。
あの、SuiCaってさ、入場と退場の駅が一緒の場合に、ピンポーン! って鳴って、出られないじゃないですか。
ああそうか。そうなるか。
仕方なく、駅員さんが居る改札口へ行ったわけです。
「どうしました」
「あ、えっと、ここで乗って、また戻ってきたんですけど」
「それは用事を済ませてということですか?」
このあたりの駅は、コンビニやちょっとした店など、俗に言う駅ナカがちょいちょいあったりする。
この駅から乗って、どこかの駅ナカまで行って用事を済ませて帰ってきたとしたら、完全に電車を「利用」したわけなので、往復の料金を支払うべきだろう。そのあたりを見極める質問だ、と気づいたんですね。
もし普通に返答するならば、「オフィスが閉まってたから家に帰ろうと思ったんですけど開いてたんで途中で引き返してまた来ました」なんですけど。
いや、全然まっとうな理由なので、堂々と言えばいいんですけど。
でもあの、なんというか、伝わりにくいかな、ってとっさに思ったのね。
いや、なんで伝わりにくいのかと思ったかって、この界隈って、ほんとに住宅街なんですよ。ベッドタウンなんです。ここに働きに来るという発想が普通は無いというか。
駅員さんの頭では、基本的にはこの駅がホームタウンだと思ってるはずなんですよ。現に、「用事を済ませて帰ってきたのですか?」と聞かれた。
そんなときに、「いやオフィスはこっちでオフィスに戻って来ました」とか言ったら一瞬混乱してしまうのでは、とか俺の超絶思いやり脳が判断したんですね。
ありのままを言って、「ん? どういうこと?」ってなったら、まあ、説明すればいいんだけど、一手増えるじゃん。全然スマートじゃない。
こういうときに、"事実の同位体"が役に立つ。
「えっと、会社行く途中だったんですけど、戻ってきました」
ここに住んでることにしました。
方向を真逆にしただけで、内容は一緒。
駅員さんの想像どおりの乗客を演じることで、お互いめんどくさくない。人生がちょっとハッピーになるちょっとした変換。
案の定、僕の説明は駅員さんの頭に水のように染みこんだようでした。
「どこまで行ったんですか?」
「えっあー、2つ先の駅です。戻ってきただけなんです」
「じゃあ、えー、はい、(料金は)いいですよ」
「えっ、有り難うございます!」
「書き換えますんで、SuiCaをいただけますか?」
SuiCaを差し出す。
それを機械に乗せる駅員。
「あれ、朝1回こっちへ来てます?」
SuiCaは、履歴を見ることができるんですね。
履歴を見れば、朝に一回この駅へ来ていることが分かる。
さっきの説明と違う! こいつよそものだ! いぶかしむ駅員。
「いやあの、えっと夜勤みたいなやつ……で……朝一回帰ってきて……それから……」
夜勤みたいなやつ。何だよそれ。夜勤みたいなやつって夜勤以外であるかな!
あと、すっげえわかりにくくなってる。話が。
夜勤で朝帰ってくる人がそのあと会社へ行って戻ってくる、という設定になってる。もっともややこしい人になってる。
なんだか納得いかなそうな顔でSuiCaを書き換える駅員。
こんな展開期待してなかった! もうこの駅降りられない! いや全然降りるけど、フードみたいのかぶって降りる! 顔の隠れる、もこもこの毛がついたフード。
ということで、もこもこの毛(着脱式)をフードに取り付けました。冬ですね。